アカボシゴマダラ Red Ring Skirt
羽化(最新の写真)
道端の草地のエノキの幼木に何か虫が来ていないかとライトで照らして見つけたのは,羽化したばかりで蛹にぶら下がるアカボシゴマダラでした.
そのエノキをさらに探すと、蛹の抜け殻がもう1つありました.この木は森の北側の草地にあり,直射日光はあたるものの、日陰になる時間が長い草地です.
基本情報
- 和名
- アカボシゴマダラ
- 分類
- 節足動物門 昆虫綱 チョウ目 (チョウ類) アゲハチョウ上科 タテハチョウ科 コムラサキ亜科 アカボシゴマダラ属 (Hestina)
- 英名
- Red Ring Skirt
- 学名
- Hestina assimilis assimilis (Linnaeus, 1758)(大陸亜種)
- 状況
- 外来生物法(最終更新:令和5年4月1日):特定外来生物(参考1)
- 外来生物法:生態系被害防止外来種(最終 修正版,2015年) (国外由来の外来種 > 総合対策外来種 > 重点対策外来種,Ⅰ 分布拡大期~まん延期 ①)(参考2,ただし大陸亜種について)
写真とメモ
終齢幼虫
道端のエノキの幼木で大きな幼虫が葉っぱをむしゃむしゃ食べているところに遭遇.体に斜め線が並んでいるのはアカボシゴマダラの幼虫.サイズから見て終齢幼虫だと思います.アカボシゴマダラの幼虫は背中の突起が4対ですが,越冬幼虫ほど突起が目立ちません.よく見ると突起の色は水色です.
頭部を下から撮影.長い角がかわいい.
近くから撮影していたら警戒されたらしく,食べるのを中断して体を丸めてしまいました.体を丸めるとなおさら葉っぱっぽいです.
しばらくして戻ってきたら,体の向きが入れ替わり,頭が上になっていました.これが休憩?待機?姿勢なのでしょう.
越冬する幼虫
以前,ゴマダラチョウの幼虫を見つけたエノキで,アカボシゴマダラの幼虫を探してみました.短い時間の間に3頭見つけられたのはきっと個体数が多いからでしょう.この3頭がぜんぜん別のところにいました.ゴマダラチョウの幼虫は,地面の落ち葉の裏に隠れて越冬しますが,南方系の外来種であるアカボシゴマダラは冬対策が徹底しておらず,色々な場所で越冬しようとして,しかも寒さに弱いので関東では大半が死んでしまうようです.
上の写真が1頭目,幹の地面から50cmぐらいの高さに張り付いてた個体です.大きさは2cmぐらいの中齢幼虫.アカボシゴマダラの幼虫は緑色系で,背面の突起が4対です.突起は1対目と3対目が大きく,2対目と4対目が小さいです.それと,尾部の1対の突起が左右くっついています.これに対して,ゴマダラチョウの幼虫は褐色系で背面の突起は3対,尾部の突起が左右離れています.こちらが2頭目,太い枝の又に溜まっていた数枚の落ち葉の裏にいた個体.風のよく通る場所なので地面の落ち葉よりも寒そうな場所です.
3頭目はまだ下枝の葉について活動中らしい幼虫です.
産卵するメスと卵
森の道沿いのエノキの葉上で見つけた綺麗な卵です.球形で光沢があり,色は黄緑色,経線状(ビーチボール状)に20本のすじが盛り上がっています.卵をいきなり見つけたわけではなく,母チョウが産卵して飛び去った後を探して見つけた「産卵ほやほや」の卵です.
産卵していた母チョウはこちら,アカボシゴマダラの春型でした.道沿いの低木を縫うように低く飛んでいて,このエノキでは数箇所に止まり直してたくさん産んでいるように見えました.
道ばたのエノキの木の近くをふらふら飛んでいた大きな白いチョウ,アカボシゴマダラ春型.翅にスレや欠けのないフレッシュな個体です.産卵場所を探しているメスでした.葉に止まると腹部を曲げて産卵をしている様子です.手の届かない場所で卵は確認できず.
春型
春型のアカボシゴマダラです.夏型とはかなり翅の印象が違い,後翅の赤い斑紋がなく,前翅・後翅とも黒い部分が少なく白っぽいです.翅は,体から翅の周囲に向かって放射状に伸びる縞模様の印象が強いです.日本在来のアカボシゴマダラ奄美亜種は夏型だけで,大陸型のアカボシゴマダラだけが春型になるそうです.
顔つきと口元.
頭上の林冠の(たぶん)トウネズミモチの葉に止まっていた白っぽいチョウ.撮影角度が厳しくて翅がちょっとしか見えませんが,アカボシゴマダラの春型のように見えました.アカボシゴマダラの夏型には,後翅に赤い斑紋がありますが,春型の後翅は白っぽくて赤い紋がありません(参考4).日本に元からいる奄美産のアカボシゴマダラは春型がなく,大陸産のものだけが春型になるそうですから,外来種の特徴ということになるかと思います.もっといい写真が撮れるとよいのですが.
夏型
疎林をヒラヒラ飛んでいたアカボシゴマダラがサクラの木に止まったところ.夏型はふつうもっとずっと大きいと思いますが,この個体はかなり小ぶりです.
樹液場に来ていたアカボシゴマダラ.樹液場での振る舞いは,コムラサキよりもおとなしいようですが,モンスズメバチよりは強くみえます.
アカボシゴマダラの樹液場での個体数は多めですが,その中にちょっと雰囲気の違うのが混じっていました.上の写真の個体は翅が少しボロですが,後翅の赤い斑点がありません.よく見ると,その位置の斑点にごく薄く赤い色がついているようにも見えますが,すごく薄いです.アカボシゴマダラで,赤い斑点のない個体といえば,春型ですが,春型の特徴は翅の黒と白のバランスが夏型とは異なり,全体的に白っぽいことです.一方,この個体は黒と白のバランスは他の夏型に近く,赤い点だけがないようにみえます.翅がボロになって赤色が落ちた?ようには見えないので,こういう個体がよく見つかるのかどうか調べてみようと思います.
同じ個体の翅の裏.裏から見ても,後翅の普通なら赤いはずの点が白く見えます.
夏の午後,小合溜の水路にひらっひらっと大きなチョウが舞い降りていくのが見えたので近づいて撮影してみました.翅を広げて水面の葉の上に止まっているのはアカボシゴマダラでした.水面をほぼ完全に覆っているのは,なぜか今年,小合溜のあちこちで大発生しているヒシの葉です.チョウの吸水シーンはよく見ますが,川から直に水を飲む,というところに外来種らしいダイナミックさ?を感じました.
逆光でヒシの葉が光っていたので,別角度に回りこんでみました.アカボシゴマダラの黄色い口吻が水面に届いているのがわかります.
水元公園では,ゴマダラチョウと同じぐらいよく見るチョウです.飛び方がゴマダラチョウほど速くなく,ひらひらとゆっくり,一回り大きくて赤い紋が付いているので目立ちます.
東南アジアを中心に広く生息する種で,要注意外来種に指定され,それを引き継いだ生態系被害防止外来種にも指定されています.日本では奄美地方に奄美亜種がもともと分布していますが(参考3),それとは別に関東中心に広がりだしていて,人為的な放虫が疑われている種類です.ゴマダラチョウと同じくエノキを食べる種類で,生息環境があっちゃったんでしょうね.幸いにも,奄美亜種がいる場所と外来種がいる場所は完全に隔離されているし,ゴマダラチョウと実験条件で交雑したところ,雑種の羽化率は低かったとのこと(参考4).
※ 令和3年(2021年)8月の特定外来生物の更新で,アカボシゴマダラは特定外来生物に指定されました(参考1).幼虫を捕まえて飼育するのも違法になりました.
翅に黒が多く,後翅の赤い斑紋がはっきりしているのが夏型.春には翅の白っぽい春型が出るようです.春型は奄美亜種にはない,大陸の亜種の特徴とのこと.いずれにしても,自分の世代の人間にとっては,子供の頃にはいなかった種類で,図鑑を見ながら南国のチョウに憧れるときの種類なので,それが地元に飛んでいるのは半端ない違和感です.
これまで写真をうまく撮れたことがなかったのですが,この日は背の高いオオブタクサに止まっているところを撮れました.一旦飛んでいっては,遠くを一回りしてはまた戻ってくる,というのを繰り返しており,オオブタクサが食草ではないだろうし,と不思議に思っていましたら,幹に止まった時に口吻を伸ばしているのを見ることができました.写真では,ゴマダラチョウと同じ色の,黄色の口吻が茎の穴に差し込まれているのがわかります.オオブタクサに吸汁に来ているのでしょう.近くにいい樹液がないのか,草の汁のほうが好きなのか.
参考
- 特定外来生物等一覧. “日本の外来種対策” (環境省 自然環境局). https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html.
- 生態系被害防止外来種リスト.“日本の外来種対策”(環境省 自然環境局). https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist.html.
- レッドデータブック・レッドリスト. “生物情報 収集・提供システム いきものログ” (環境省生物多様性センター). https://ikilog.biodic.go.jp/Rdb/booklist.
- アカボシゴマダラ.“国立環境研究所 侵入生物データベース”. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/60400.html, (参照 2023-05-07).
- “アカボシゴマダラ”. ウィキペディア日本語版. 2022-04-01. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AB%E3%83%9C%E3%82%B7%E3%82%B4%E3%83%9E%E3%83%80%E3%83%A9, (参照 2023-05-07).
- . “”. , (参照 ).
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