基本情報

和名
マスクラット
分類
哺乳綱 ネズミ目 ネズミ科 マスクラット属 (Ondatra)
英名
Muskrat
学名
Ondatra zibethicus
状況
外来生物法(最終更新:令和5年4月1日):特定外来生物(参考1)
外来生物法生態系被害防止外来種(最終 修正版,2015年) (国外由来の外来種 > 総合対策外来種 > 重点対策外来種,Ⅰ 定着初期/限定分布 ①④) (参考2)
IUCN レッドリスト 2023-1[LC] Least Concern (絶滅のおそれなし) ver 3.1, Pop. trend stable (個体数動向 安定) (参考3)

写真とメモ

最新の写真

園内の水辺,2020年2月9日お昼,晴れ

ヨシ原などにいるマスクラットはなかなかじっとしていなくて写真を撮れたことがないのですが,今回,陸上で動き回っているところを初撮影です.はっきりした比較物がないので動物の大きさはよくわかりませんが,水辺の灌木かクズか何かの上にいるところをじっくり見られました.体の毛はふさふさで,黒くて太い尾が目立ちます.後ろ足の長い爪が白く見えています.ほおがふくらんで見えるのは口に食べたものが入っているのでしょうか,あちこち動き回って草の芽か実かなにかを食べているところのようです.

園内の水辺,2020年2月9日お昼,晴れ

この水辺では,この冬何度かマスクラットが泳いで巣材を運んでいるのを見ていました.この近くで巣作り中と思われます.写真に写っている場所は水に囲まれた島のようなところなので,マスクラットが比較的警戒しない姿を見られます.上の写真は,泳いできたマスクラットが水の上の枝につかまって,スルスルと登り始めたところです.水上数10cmぐらいの高さで止まって,1枚目の写真のように口を動かし始めました.「木登り」と言ってよいのかわかりませんが,細い枝をつかんで器用に登れるようです.ただし,動きは決して素早くはなかったです.もしも,いま外敵が来たら,きっと水に落ちて水中に逃げると思います.

園内の水辺,2020年2月9日お昼,晴れ

登ってしばらくじっとしていた後は,あちこち動き回ってまたじっとしてを繰り返しています.

園内の水辺,2020年2月9日お昼,晴れ

前足で枝をつかんで,盛んに頭部を動かしていました.ここでも何かを食べている様子.



ヌートリアとマスクラット

関西ではヌートリアという南米原産の外来種のネズミが増殖して問題になっています.日本在来種を圧迫して生態系に対して悪い影響があること以外にも,農作物を食べ荒らしたり,堤防の土手に巣穴を掘って堤防の強度を下げることが問題になっている種類です.水元公園で見かけることがある大型のネズミ類はヌートリアではありません.ここで見つかるのはマスクラットという,ヌートリアよりも小型の種類です.こちらも外来種で北米原産ですが,現在ではヨーロッパから東アジアまでユーラシア大陸に広く分布が広がってしまっています(参考3).水元公園の中土手がたまに決壊して小合溜と隣を流れる大場川がつながってしまうことがありますが,この土手にはきっとマスクラットが巣穴を掘っていると思うので,もしかしてマスクラットが原因で土手の強度が下がっているかもしれません.

ヌートリアもマスクラットも,どちらもかつて軍で使う防寒の毛皮用に養殖されていたものが逃げ出して広がったものとのこと.現在でも,ファッション用として ヌートリアのコートマスクラットのコートが販売されているようです(リンク先はアマゾン).自分には縁がないですが,かなり高価ですね.

ヌートリアは成獣の頭胴長(尾を除いた体長)は60cm以上にもなる種類ですが,マスクラットは成長しても頭胴長30cmそこそこです.からだの長さが2倍違うということは,体重はおそらく8倍以上違います.マスクラットを野外でみつけるとちょっと大きめのネズミに見えますが,成獣のヌートリアを見つけたら大きくてびっくりするだろうなと思います.ヌートリアと近い大きさのネズミ類では,ビーバーやヤマアラシ類などがいます.日本ではヌートリアは関西を中心に広い範囲に広がりつつあるようですが(参考8),マスクラットは水元公園を含む,江戸川周辺だけに細々と分布しています.どちらの種類も特定外来生物に指定されていますが,ヌートリアのほうが日本の環境により適合したのかもしれません.参考8によると,ヌートリアは埼玉県にも生息しているそうなので,実は水元公園にもヌートリアが生息しているのかもしれません.

ヌートリアとマスクラットはよく似ていますが,大きさ以外の区別点は,ひげの色,手足の爪の色,尾の形などがあるそうです.マスクラットのひげは黒いですが,ヌートリアのひげは白,マスクラットの爪は白いですが,ヌートリアの爪は黒.尾の断面の形では,マスクラットでは上下に広く,左右につぶれた縦長の断面をした,扁平な尾ですが,ヌートリアの尾の断面は丸いとのこと(参考9).前歯の色がオレンジ色なのがヌートリアの区別法と書かれているサイトがありましたが,マスクラットの頭骨の標本を見ても前歯がオレンジ色なので区別には使えなさそうです(参考10).


マスクラット死体発見

小合溜沿い,2018年9月2日朝,雨

雨の朝,公園を散歩中に小合溜沿いの道端にマスクラット?(たぶん)の死体を発見.死体でもないとじっくり観察できない動物なので写真撮りまくりです.腹面をみると小さな突起がみえたのでオスです.背面,腹面とも目立った外傷や出血はなしで,死因は不明.死体なので毛が乱れているのはしょうがないとして,毛並みもよく,体もおなかも肉付きはよいようです.体長(頭胴長)は29cm,尾長は20cm,もしもマスクラットなら,成獣として標準的かやや小さめの体型です.どういう理由で死んだ個体なんでしょう?

小合溜沿い,2018年9月2日朝,雨

背中の毛並みの拡大.遠目で見るマスクラットの毛はこげ茶色の剛毛がぴんぴん生えてる印象でしたが,この個体の毛を近くで見るとまったく違っていました.長い毛(刺毛,毛皮業界では上毛)と短い毛(綿毛,毛皮業界では下毛)が2種類生えていて,長い毛はこげ茶色,短い毛は白いようです(用語は参考6).長い毛は1本1本太めですが特に剛毛といった感じはしません.今まで剛毛と思っていたのは,水で濡れた毛がたくさん集まってぴんぴん立っているのを見たからだったのかな,と想像しています.下の写真は腹面の写真ですが,腹面は背面よりも白っぽくて,茶色い長い毛が少なそうです.ネット上でマスクラットの毛皮コートを見ると(参考7),全体がこげ茶色のものと,茶色い部分と白っぽい部分が交互に出てくるのがありますが,背面に合わせて腹面の色を染めるかどうかでその違いが出るのでしょう.

小合溜沿い,2018年9月2日朝,雨

腹面.

小合溜沿い,2018年9月2日朝,雨

歯がすごいです.上と下の切歯がどちらも強大.おとなしい動物ですが,不用意に捕まえたりして歯でザクッとやられたら大怪我しますね.ヒゲは明らかに黒いので,これはマスクラットっぽい.ヌートリアのひげは白.

小合溜沿い,2018年9月2日朝,雨

左が前足.右が後ろ足の拡大.穴を掘る動物なので厚くて頑丈そうな爪をしています.爪の色は白っぽいですね.ヌートリアの爪は黒いそうです.爪の大きさ,長さはモグラなどに比べたらずっと控えめ.泳ぐ動物なのでもっと手足が大きい(面積が広い)かと思っていましたが,そんなこともないようです.尾の様子が,左右に平べったいはずのマスクラットっぽくない気がするのが気になるところ.黒い角質があるのは見えるのですが…



小合溜(水元大橋),2018年12月24日夕方,晴れ

水元大橋から小合溜の水鳥を見ていたとき,水面から顔を出して泳ぐ小動物を発見.橋の下をくぐって,かなり速いスピードで,旧ボート乗り場のところまで進んでいきました.臆病なマスクラットが広いところに泳ぎ出るのは夜という印象があったのですが,まだ日差しの明るい時間帯でした.



小合溜,2017年4月29日午後,晴れ

なかなか写真を撮れませんが,前回の写真から何回か見かけてはいましたマスクラット.上の写真は水面を滑るようにスーッと泳いでいるところ.この写真の個体も小さいので子どもかもしれません.



水元公園内の小合溜につながる水路,2012年7月8日午後,晴れ

はじめて見ました.やはり水元公園にはいるんですね.サイズから見てまだ子どもかも.見た目はネズミに似てるんですが,泳ぎがかなり達者です.完全に水中に潜っては1m以上離れたところから顔を出したりします.次々と潜って移動しては顔を出すので,あっちにぴょこん,こっちにぴょこん,ちょうどカイツブリみたいな印象です.

この水路は,水草のアナカリス(オオカナダモ)がびっしりと水面まで繁茂しています.おそらく水中では水草は食べ放題でしょうし,クチボソなどの小魚やスジエビも食べ放題なのでは.マスクラットはどっちを食べてるんでしょうか.



参考

  1. 特定外来生物等一覧. “日本の外来種対策” (環境省 自然環境局). https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html.
  2. 生態系被害防止外来種リスト.“日本の外来種対策”(環境省 自然環境局). https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist.html.
  3. Cassola, F. 2016. Ondatra zibethicus. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T15324A22344525. https://dx.doi.org/10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T15324A22344525.en. Accessed on 01 October 2023.
  4. “マスクラット”. ウィキペディア日本語版. 2023-06-23. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88, (参照 2023-10-01).
  5. マスクラット. “国立環境研究所 侵入生物データベース”. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10090.html, (参照 2023-10-01).
  6. 毛皮の構造と特性. “日本毛皮協会”. http://www.fur.or.jp/knowledge_kouzou/, (参照 2023-10-01).
  7. 「マスクラット コート」のGoogle画像検索結果.https://www.google.com/search?q=%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%88+%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%88&tbm=isch
  8. ヌートリア. “国立環境研究所 侵入生物データベース”. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10140.html, (参照 2023-10-01).
  9. 羽山伸一 他:野生鳥獣被害防止マニュアル-アライグマ、ヌートリア、キョン、マングース、タイワンリス(特定外来生物編)-平成22年3月版.第4章 対象動物の基礎知識.2.ヌートリア.農林水産省生産局農業生産支援課鳥獣被害対策室 発行.p.61. https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/manyuaru/old_manual/manual_tokutei_gairai_old/gairai.html.
  10. ONDATRA ZIBETHICUS ZIBETHICUS. : In "University of Michigan Museum of Zoology, Mammal Division Collection Database with Specimen Images". (2021-03-16) Retrieved from https://quod.lib.umich.edu/m/mam1ic/x-75139/75139d on 01 October 2023.
  11. . “”. , (参照 ).