アブラナ Turnip Rape
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江戸川土手の斜面に,菜の花っぽい黄色い花が点々と咲いていて,ここだけ春になっていました.河川敷は強い風が当たる場所だと思うのですが,日当たりがよいからか,川筋は海風が吹くからか,温かいのでしょうか.
最近の資料として参考4を見つけましたので,これに従って菜の花の種類を判別してみました.参考4には問題点として,在来種のアブラナが一般向けの図鑑などに記載されていない例が多いこと,一般向けの資料に掲載された写真で在来種アブラナをセイヨウアブラナなどと誤同定,誤掲載している例があることが指摘されていました.参考4に書かれていた区別点でわかりやすいのは以下の3点です.
まず1つ目の点は,葉と茎のつき方.葉の付け根が茎を取り巻くのが在来種アブラナとセイヨウアブラナで,葉が茎を取り巻かないのがセイヨウカラシナ.
2点目と3点目めは在来種アブラナとセイヨウアブラナの区別法です.花が咲いている花茎で,花は下から咲き始めますが,まだ咲いていない上のつぼみが,すでに咲いている花びらの下に隠れるかどうか?上の写真ではつぼみが花びらに隠れていますが,これは在来種アブラナの特徴で,セイヨウアブラナではつぼみのときに花茎がもっと伸びるため,花びらの高さよりも上の位置につぼみがあり,つぼみが花びらで隠れないとのこと.
3つめの区別点が,花が咲いたときのガクの広がり方(上の写真の矢印)です.影になって見にくいですが,写真のようにガクが平らに開くのが在来種アブラナで,花びらにくっつくように斜めに伸びるのがセイヨウアブラナです.これらのことから,江戸川土手の菜の花は在来種アブラナと判断しました.
ただし,これは種レベルでの判断です.このページの一番下に表で整理したように,在来種アブラナには,同じ種の変種の関係になっている多くの野菜が含まれていて,たとえば.ノザワナ、コマツナ、チンゲンサイ、ハクサイ、カブなどは,種としては在来種アブラナに含まれますので,上に上げた3つの区別点では在来種アブラナとして認識されると思います.なので,こういった在来種アブラナの変種の野菜,またはその交雑したものかもしれません.土手の広い範囲に広がっているところを見ると,葉は非常に大きくて立派です.
葉の拡大.この大きな葉はどの野菜に似ているのでしょう.コマツナやチンゲンサイの葉は鋸歯がなく縁が平滑だし,カブの葉はこんなに大きくないと思いますが,ハクサイの葉が伸びてもこういう形にはならないでしょうから,純粋な野菜ではなさそうですが,これらのどれかの野菜と,在来種アブラナが交雑している可能性はあるかもしれません.
基本情報
- 和名
- アブラナ (アブラナの原種ラパ Brassica rapa の亜種または変種)
- 分類
- 被子植物類 真正双子葉類 バラ類 アブラナ目 アブラナ科 アブラナ属 (Brassica)
- 英名
- Turnip Rape, Polish Canola(アブラナ),Wild Turnip, Bird's Rape(原種ラパ)
- 学名
- Brassica rapa, syn. Brassica campestris (原種 ラパ)
Brassica rapa subsp. oleifera または Brassica rapa var. oleifera(亜種または変種アブラナ) - 状況
- IUCN レッドリスト 2023-1:[DD] Data Defiecient (データ不足) ver 3.1, Pop. trend unknown (個体数動向 不明)(ただし,原種ラパについて) (参考1)
写真とメモ
中央広場の道端に植えられていたアブラナの花が咲いていたのは3月ですが,花はもうすっかり終わっていて,緑色の若い実がなっていました.実の先端の細く尖った部分は雌しべの柱頭由来で果嘴(かし)と呼ぶそうです.
あまり大きくないアブラナの花1つ1つから,この細長い実が1つできるので,かなり高密度についているように感じます.種は夏より前に採取できるです.
葉と茎の拡大.葉が茎を巻いているところ.
「ガマ田」の近く,小合溜に続く水路付近の草地が一面の菜の花畑になっていました.面積はそんなに広くないですが,辺り一帯が黄色く明るく感じられました.在来種のアブラナとセイヨウアブラナ,セイヨウカラシナとの区別点を拡大してみました.
花と花びらの大きさ.在来種アブラナは,花と花びらが小さいです.明らかにサイズが違うのはセイヨウアブラナで,1枚の花びらの大きさはセイヨウアブラナで1cmまたはそれ以上なのに対して,在来種アブラナでは大きくても1cm未満,上の写真では5~6 mmぐらいでしょうか.見た目では,在来種アブラナに比べて,セイヨウアブラナのほうが花がゴージャスに見えます.セイヨウカラシナはその中間ぐらいとのこと.
ガクのつき方.花が完全に開いたときに,上の写真のように,ガクが茎に対して直角に近い角度で出るのが在来種のアブラナ.一方,セイヨウアブラナでは,ガクは斜めに出て,先端が花びらにくっつく感じです.
茎から葉の出かた.こちらはセイヨウカラシナとの区別.在来種アブラナやセイヨウアブラナは,葉の根本が茎の周りを取り巻くのに対して,セイヨウカラシナでは葉が茎から離れて出ます.
グリーンプラザ裏の畑に満開の菜の花畑がありました.畑はまっ黄色で,ハナアブなどがたくさん集まって蜜を吸っていて,この周辺だけはすっかり春でした.ただ,この菜の花畑は,区切られた一角だけで,あまり広くありません.水元公園には,見渡す限り一面の菜の花畑!という景色があるわけではないので,念のためご注意ください.
「菜の花=アブラナ」という先入観を持っていましたが,このページの上の分類表をつくろうとして,実はアブラナやその仲間であるアブラナ属には,とんでもなくいろいろな種類が含まれていることが少しわかってきました.まずはわかりやすいところから.今の日本で「アブラナ」に見える植物には少なくとも3種類あるそうです(参考2).在来種のアブラナとセイヨウアブラナとセイヨウカラシナの3種.どれもアブラナ属に含まれる近縁種で,よく似ています.もっとも,アブラナ属に含まれる種類はどれもみな同じような花を咲かせるので,注意しないとどれも「菜の花」っぽいそうです.これらの3種類の区別法は,葉がポイントだそうです.参考2の比較の図がわかりやすいです.この畑に植えられていたのは,拡大写真(下)のように,茎が太く,葉の根元が茎を囲むように取り巻いていて,葉が大きく丸く,葉の表面に白い粉が吹いていない,という条件で,在来種のアブラナだとわかりました.在来種のアブラナとは,八百屋で食用の「菜の花」として売られている種類です.そういう目で見ると,食卓でお目にかかる菜の花と茎や葉の雰囲気がそっくりで,美味しそうに見えてきます.セイヨウアブラナは,菜種油(キャノーラ油)を採る種類.なたね油は,在来種のアブラナでも採れるそうで,かつての日本では在来種のアブラナでなたね油を採っていたそうです.最後のセイヨウカラシナは,マスタードを採る種類のカラシナの原種が野生化しているものだそうです.
ここまではよかったのですが,参考3によると,在来種のアブラナは,ラパという原種の亜種(または変種)で,同じくラパの亜種(変種)には,ノザワナ,コマツナ,ミズナ,ハクサイ,チンゲンサイ,カブなどもあるというではありませんか.これらの多種多様な野菜が,みなアブラナと同じ種類とは…いやあ,野菜について無知でした.さっきは,葉の付き方の微妙な違いで別の種類と区別したはずなのに,同じ種の中には葉の形も大きさもぜんぜん違うグループも含まれているわけです.同じ種類ということは,簡単にお互いに交雑してしまうでしょうから(同じ種類だから「交雑」とも言わないかも?),葉がミズナっぽいアブラナとか,カブっぽいアブラナとかが自然とできてしまってもおかしくないわけです.
ちなみに,セイヨウアブラナと同じ種類にはルタバガ(スウェーデンカブ)が含まれ,セイヨウカラシナと同じ種類には,カラシナ,タカナ,ザーサイが含まれ,別のアブラナ属の種類であるヤセイカンランには,キャベツ,メキャベツ,ハボタン,ブロッコリー,カリフラワー,ケールなどが含まれるとのこと.それぞれ,生物学的には同じ種類なのに,このバラエティに富んだラインナップは,イヌ,ネコや家畜の品種以上ですね.
種 | 含まれる亜種・変種 |
---|---|
セイヨウアブラナ | ルタバガ |
セイヨウカラシナ | カラシナ,タカナ,ザーサイ |
ヤセイカンラン | キャベツ,メキャベツ,ハボタン,ブロッコリー,カリフラワー,ケール |
ラパ | アブラナ,ノザワナ,コマツナ,チンゲンサイ,ハクサイ,カブ |
参考
- Kell, S.P. 2011. Brassica rapa (Europe assessment). The IUCN Red List of Threatened Species 2011: e.T170112A6718191. Scope of assessment: Europe(調査対象地:ヨーロッパ). Retrieved from https://www.iucnredlist.org/species/170112/6718191, Accessed on 20 January 2024.
- 農民連食品調査センター:遺伝子組み換えナタネ調査隊 (PDF).https://earlybirds.ddo.jp/natane/resources/manual200902r.pdf, (参照 2024-01-21).
- “アブラナ”. ウィキペディア日本語版. 2023-11-04. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%8A, (参照 2024-01-21).
- 中山 他:河川環境に自生するアブラナ属植物の識別について (PDF).雑草研究 67(1):31-43. 2022. https://www.jstage.jst.go.jp/article/weed/67/1/67_31/_pdf.
- . “”. , (参照 ).
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