基本情報

和名
ナラエダムレタマバチ(ナラハグキコブタマバチ)
分類
節足動物門 昆虫綱 ハチ目 タマバチ科 Callirhytis属
英名
(in Jpn.) Naraedamuretamabachi: A species of oak gall wasp
学名
Callirhytis hakonensis
状況

写真とメモ

園内の林、2016年6月25日午後、くもり

コナラの下枝に虫こぶ(虫えい)を見つけました。虫こぶは、昆虫などが植物内に卵を産み付けて、それが育つ際に分泌される成分に植物が反応してつくられる塊です。昆虫の種類と植物の種類によって虫こぶの形も決まっているので、その虫こぶに名前が付けられ、昆虫もその虫こぶと関連した名前がつく場合が多いようです。上の写真のようなコナラの細い枝に丸い塊が連なる形の虫こぶは、ナラエダムレタマフシと呼ばれる虫こぶでした(参考1-2)。ナラエダムレタマフシをつくる昆虫はナラエダムレタマバチという種類で、1つ1つのコブの中に1頭ずつハチの幼虫が育つようになっています(参考3)。周りに群がるアリ(トビイロシワアリに見えます)は、この虫こぶから分泌される蜜に集まっているそうで、虫こぶはアリに守ってもらっています(参考4)。うまくできたシステムですね。タマバチとアリは共生関係といえるのですが、コナラは虫こぶができてよいことがあるのでしょうか?(タマバチはコナラと共生しているのでしょうか、それとも寄生でしょうか?)

タマバチ類の種類の研究がどのぐらい進んでいるのかわかりませんので、もしかしたらよく似た未記載の種類がいるのかもしれませんが、便宜上この名前にしておきます。

園内の林、2016年6月25日午後、くもり

参考URLの1によると、ナラエダムレタマバチという種類はもう1つ別の形の虫こぶを作ることが知られているようで、それはナラハグキコブフシというそうです。「タマフシ」や「コブフシ」は虫こぶの形からつけられた名前で、ナラハグキコブフシは葉の主脈や葉柄につくられるそうです。ナラハグキコブフシは「楢の葉の茎につくられる瘤」、ナラエダムレタマフシは「楢の枝に群れてつくられる球」の意味でしょうか。ナラエダムレタマフシもナラハグキコブフシも、どちらもミズナラ、コナラ、カシワなどに作られます。

では、ナラエダムレタマフシとナラハグキコブフシでは何が違うのかというと、このタマバチには、受精卵から成長する(有性生殖の)虫とメスだけの単為生殖による虫がいて、受精卵が産み付けられるとナラハグキコブフシがつくられ、単為生殖卵が産まれるとナラエダムレタマフシがつくられるそうです。もちろん、どちらの虫こぶでも幼虫はちゃんと育ち、それぞれ成虫になります。ナラエダムレタマバチには、ナラハグキコブバチという別名がありますが、最初は2種類の虫こぶはそれぞれ別種のタマバチ(ナラエダムレタマバチとナラハグキコブバチ)によってつくられると思われていたのが、調査の結果同じ種類だと後で分かった感じなのだと思います。

1種の虫が2種類の虫こぶをつくることを考えてみると面白いのは、まず1つ目ですが、受精卵が産まれたときと単為生殖卵が産まれたときでは、できる虫こぶの形が違うということ。もしかしたら、卵や幼虫から分泌される物質の成分が有性生殖虫と単為生殖虫とでは違っているのでしょうか?分泌される物質の種類が違うと植物の反応も異なり、別の形の虫こぶになるのはありえそうです。

もう一つは、有性生殖虫の虫こぶと単為生殖虫の虫こぶでは、できる場所が違うのがなぜなのかということ。有性虫のいるナラハグキコブフシは葉の主脈や葉柄にでき、単為生殖虫のいるナラエダムレタマフシは枝にできます。メスが卵を産む場所が、受精卵を産むときと単為生殖卵を産むときで違っているのでしょうか? それとも、卵を産む場所は同じなのに、孵化した幼虫が移動していく場所が有性虫と単為生殖虫で違うのでしょうか。


参考

  1. ナラエダムレタマフシ(単性世代) - 『北海道の虫えい(虫こぶ)』 http://www.galls.coo.net/10-buna/11-nara/index.html
  2. ナラエダムレタマバチ ナラエダムレタマフシ ナラハグキコブフシ - 『不二聖心女子学院 中学校・高等学校  フィールド日記』 http://www.fujiseishin-jh.ed.jp/field_diary/2012/05/5547/
  3. ナラエダムレタマフシの断面 (中にナラエダムレタマバチの幼虫) - 『アマナイメージズ 写真素材・イラスト』 http://amanaimages.com/info/infoRM.aspx?SearchKey=32123001605&GroupCD=0&no=30
  4. 痛み吟醸の美酒 - 『Ⅲ月紀・修羅』 http://sangetuki.blog.fc2.com/blog-entry-440.html